ギーゼリング・ダンケルツ『ミサ・ベアータ・ヴィルジネ』 ノートルダム楽派の再来?

 イタリアのグループの演奏による,かなり珍しい作曲家の作品集です.

  Cantar Lontano: Dankerts: Missa de Beata Virgine

 ギーゼリング・ダンケルツは現在のオランダのゼーラント州のトーレンで生まれ,どこで教育を受けたかなどはわからないようですが,やはりフランドル楽派の常であるように,イタリアに活躍の場を求めて,ナポリで貴族に仕えた後,教皇庁の歌手になった人物だそうです.音楽史的には伝統的全音階的音楽vs.半音階的音楽の論争で保守派論客であったほか,最終的には声の弱さ・多情・金満・病弱という理由で教皇庁を罷免された人物だそうです(実際の理由はコストカットでしょうが).楽曲は比較的最近になって発見されたとのことで,このミサ曲(固有文付き)もその一つだそうです.
 で,実際聞いてみるとまず大多数のフランドル楽派からは想像もつかない音楽が始まります.なにしろ,定旋律がバッススにあって,それに三声が即興的に上下するメロディーを絡ませているという音楽です.中世音楽に馴染みのある人なら,まるでノートルダム楽派に先祖返りしたかのような音楽だと思うでしょう.通常文は中世音楽的な印象はやや弱まるのですが,それでも比較的間隔の短い模倣や動きの激しいメロディーの対位法も独特の響きです.それがノートルダム楽派っぽい固有文に挟まれているので,この配置はやはり意図的なものでしょうね.
 どういう意図でこのような作曲をしたのかは素人にはわからないですが,想像を逞しくするなら,これは保守派論客による新しい音楽の可能性,つまりあえて半音階を使わずに,全音階に加えてしっかり定旋律を使いつつ,それでも斬新な音楽世界を作る可能性を示してみた,ということになるのかもしれません.この方向でモンテヴェルディらが新音楽を築き上げることは残念ながらなかったのですが,できればバロックでも一度ぐらいはノートルダム楽派に先祖返りした音楽があったら面白かったかなと思います.もちろん,発掘したら出てくるかもしれませんが.

鳴門アカデミー合唱団(山田啓明指揮) ジョスカン『ミサ・パンジェ・リングヮ』

 ジョスカンのミサ・パンジェ・リングヮの多分理想的な演奏(僕としてはですが).演奏は徳島県の鳴門アカデミー合唱団(山田啓明指揮).日本の合唱団が一番の理想的演奏とは思いませんでした.男声(多分プロかセミプロ)が少人数のフル・ヴォイスでしっかり歌っていて,上の声部はかなりの大人数です(多分プロアマ混成).現代の合唱としてはバランスは普通じゃないように思えますが,この極端な頭でっかちの声部バランスこそルネサンスでは割と普通だったことが文献から分かっています.このの演奏を聴いていても,これがルネサンス音楽では理想的な声部バランスだろうと思います.指揮者がかなり言葉の表出を激しくやってくれていますし,プロポルツィオが変わるところなんかもよく効果がでています.僕がMIDIで作ってもこういうイメージで作ると思いますね.完全プロポルツィオのところとCUTの速度の差はもうちょっとあったほうがいいかとは思います(ですがよく対位法がわかる結果となっています).あとチェスターの楽譜はたしか声部を現代混声合唱用に入れ替えたりしているので,これも写本か写本から起こした楽譜でやってくれればよかったでしょうか……

posted by 新見我無人 at 00:29Comment(0)日記

スプリット・キー・チェンバロの動画

ミーントーンのチェンバロで,黒鍵盤を分割して可能な限り純正な和音がでるようにしたチェンバロがルネサンス後期・バロック初期に考案され,実際に作られたことがあるようです(半音階を使った楽曲での協和しきれない音程を回避するため).それを実際に演奏した動画.純正律にうるさい人でもちょっと微分音酔いするかもしれません.厳密な絶対音感がある人が聞いたら半日ぐらい頭痛がすると思います.アバウトな移動ド音感の僕でも連続では聞いていられないですが,面白い動画ではあります.


Nicola Vicentino (1511-1575/1576年) 著 L'antica musica ridotta alla prattica moderna (Roma 1555)にある実例(原本ファクシミリはこちら)だそうです.3分ぐらいですが,2回も聞くと僕でも微分音酔いします.



こちらは Galeazzo Sabbatini (1597–1662年) の通奏低音つき三声のモテット.どんな純正律信者でもこれを厳密に歌うことはできないでしょうね.演奏している人の音感の精密さと柔軟さに脱帽です.声楽が入っているので上の動画よりは聞きやすいですが,連続して聞くと微分音酔いしますね.ソプラノは以前にもフレスコバルディの動画で紹介している Alice Borciani さん.多分21世紀のプリマ・ドンナは古楽演奏者のこの方だと思います(僕としては20世紀のプリマ・ドンナは Amelita Galli-Curci か Luisa tetrazzini だと思います).


posted by 新見我無人 at 10:21Comment(0)日記